手術を行う患者様には、何らかの麻酔を行わせて頂きます。
麻酔とは、手術中の痛みや意識を取り除くだけではなく、手術が安全に行えるように、患者様の全身状態を維持することです。
麻酔を行っている間は、主治医の他にも麻酔科医、手術室看護師が傍に付き添い、安全な麻酔・全身管理ができるよう努めております。
麻酔科医が担当するものは全身麻酔となります。
多くの場合は、全身麻酔に痛みをとるための他の麻酔を併用して手術を行います(全身麻酔+伝達麻酔 等)。
◎全身麻酔
完全に意識をなくす麻酔方法となります。
手術室に入って準備をした後、点滴から麻酔薬を投与したら眠ってしまいます。
起きた時には手術は終了しております。
◎脊髄くも膜下麻酔(脊髄麻酔)
下半身の感覚を取り、痛みを感じなくする麻酔方法となります。
横向きで猫が丸まったような態勢をとり、腰から注射をし、脊髄を包んでいる袋の中に麻酔薬を入れます。手術後も数時間は痺れが残ります。
◎硬膜外麻酔
脊髄くも膜下麻酔と似た麻酔法となりますが、麻酔薬を入れる場所が脊髄を包んでいる袋の外側となります。背中あるいは腰から注射し、そこから直径1mm位の柔らかいプラスチックチューブを留置し、手術後も持続的に麻酔薬を流すことで、術後疼痛を和らげます。
◎伝達麻酔
超音波装置を用いて、上下肢の神経の周囲に麻酔薬を入れる方法です。
区画的に痛みをとることができます。手術後はしばらくの間痛みをとることができますが、行った部位が痺れたり、うまく動かせなくなります。
◎局所麻酔
手術をする部位に直接麻酔薬を投与し、痛みをとります。
小さな手術の場合は、局所麻酔薬のみで手術を行いますが、麻酔科医が担当することはほとんどありません。
~麻酔前~
・絶飲食について
胃の中に食べ物や水分が残った状態で麻酔をすることは危険を伴います。胃の内容物が逆流して肺の中へ流れ込むことで誤嚥(ごえん)性肺炎を起こす可能性があるためです。
当院では原則、手術前日の21時以降は絶食、当日午前の手術の場合は5時以降、午後の手術の場合は8時以降の絶飲食としています。
・内服薬について
手術当日の朝に内服していただくものと、中止していただくものがあります。
担当医の指示に従い、内服して頂きます。
内服中の薬がある場合は、お知らせください。
・禁煙について
喫煙は手術・麻酔を行う上で悪影響を及ぼします。肺炎などの合併症の危険性が増え、傷の治りも悪くなります。悪影響をなくすには1か月以上の禁煙が必要ですが、いつから禁煙を始めても合併症を減らす効果はあり、早いほど有効です。
手術・麻酔の安全性を高めるためにも、手術前には禁煙をお願い致します。受動喫煙も同様に有害ですので、ご家族の方もご協力をお願いします。
・点滴について
手術当日の朝に、病棟で点滴を開始させて頂きます。
・その他
入院の場合は、手術前に麻酔科医、及び看護師が訪問し、手術についての問診や説明を取らせて頂きます。不安なことやお困りのことがありましたら、遠慮なくお申し付けください。
~手術室に入ってから~
手術室までは、歩ける方は歩いて、歩行が難しい場合はストレッチャーと呼ばれる移動式の簡易ベッドで来ていただきます。
手術室に入りましたら、手術台に移っていただき、心電図と血圧計、また酸素を図る指のクリップをつけます。
その後、全身麻酔に移っていきます。
お顔にマスクを当てて、酸素を流し、点滴から麻酔の薬が入るとだんだん眠くなってきます。
麻酔の薬は点滴の刺入部がピリピリと染みるように痛む場合がございます。
以後は患者様が眠った後に行われる処置となります。状況に応じて、下記の処置を行わせていただきます。
・気管チューブの挿管、人工呼吸器の使用
・尿道カテーテルの挿入
・全身麻酔以外の他の麻酔
麻酔が終わりましたら、手術の準備となります。
手術がやりやすいように体の向きを調整し、皮膚を消毒して手術開始となります。
手術が終わりましたら、麻酔から目覚めるときとなります。
麻酔薬を中断したら速やかに覚醒します。覚醒後も虚ろとした状態のことがあります。
気管のチューブについては呼吸状態を麻酔科医が確認しながら、抜きます。
「目を開けて」「手を握って」「深呼吸をして」等の簡単な指示を出しますので、その通りにしてください。
麻酔が十分に覚め、血圧や呼吸、痛みが落ち着いていることが確認出来たら、病棟へ帰ります。
・歯の損傷、声のかすれ、のどの痛み
全身麻酔の時は口から気管にチューブを入れますが、その時に歯を損傷することがあります。その時にグラグラの歯や1本だけ残った歯は損傷の頻度が高くなります。外せる入れ歯は前もって外してきてください。グラグラの歯については必ず申し出てください。また手術の後、声がかすれたり喉が痛んだりすることが比較的多くみられますが、普通は2~3日でよくなります。
・悪心、嘔吐
全身麻酔から起きた後、むかつきが続いたり実際に吐いてしまうことがあります。女性の方や乗り物酔いしやすい方に多く見られます。患者様の退室や手術の部位、また術中や術後に使用する薬剤が関係しております。手術後にむかつきが出た場合は、遠慮なく申し出てください。
・術後肺炎、無気肺
全身麻酔のあとは、肺のふくらみが不十分となります。また気管チューブを挿管した刺激で痰が多くなったりします。手術後は繰り返し深呼吸をし、咳をして痰を出すようにしてください。
・悪性高熱症
全身麻酔に伴う、非常に稀ですが重大な合併症です。麻酔中に体温が異常上昇し全身の筋肉が固くなる病気です。家族性に発症することもありますので、家系の方でこのようになった方がおられましたら必ず申し出てください。
・頭痛
脊髄くも膜下麻酔や硬膜外麻酔を施行した際に、起き上がった時などに頭痛を感じることがあります。針を刺した穴から髄液が漏れることが原因となります。枕を低くしてベッド上で横になっていると症状が軽快します。通常は1週間ほどで良くなります。
・神経障害
脊髄くも膜下麻酔や硬膜外麻酔、また伝達麻酔を施行した際に、その麻酔領域に手術後もしびれや筋力低下、違和感が残ることがあります。通常脊髄くも膜下麻酔は数時間、伝達麻酔では6時間~半日程度で改善します。しかし、手術部位や針の穿刺部位に血液が溜まることで神経圧迫を引き起こし、しびれが発生することも稀にこざいますので、症状がある場合は申し出てください。
・深部静脈血栓症、肺塞栓症
長時間体を動かさないでいると、血液の流れが滞り、血管の中に血栓(血の塊)ができることがあります。下肢の静脈に多く見られ、大きくなった血栓が剥がれて大事な血管に詰まると突然の呼吸不全や心停止を起こすことがあります。
血栓を予防するために、手術中・後には弾性ストッキングの着用、フットポンプといわれる足をマッサージする器械の使用をさせて頂きます。また術後に動ける場合は、早い段階で離床し、体を動かすことが一番の予防となります。すぐに動けない場合も、ベッド上で積極的に足を動かす運動をしてください。
・アナフィラキシー反応
投与した薬や、手術に使用する物品に対して体が過剰に反応して起こる強いアレルギー症状です。どの薬剤でも起こり得ます。また、ラテックスという素材でもアレルギー反応を起こす場合があり、ラテックスはゴム製品に多く使われている素材です。以前に注射や内服薬でアレルギーが出たことがある方、また食物等も含めてアレルギーのある方は、必ず申し出てください。
・心臓の障害
術中、術後の心筋梗塞は以前に起こしたことがあるなど、元々危険性の高い方ではごく稀に起こることが報告されております。
・脳の障害
術中、術後の脳梗塞や脳出血は以前に起こしたことがあるなど、元々危険性の高い方ではごく稀に起こることが報告されております。
・肝臓、腎臓の障害
術後に肝臓や腎臓の機能が低下することがありますが、元々障害のある方でなければ、治療を要するほど低下することはごく稀です。
合併症が発生した場合、緊急を要するときには麻酔中や術後に麻酔科医が適当と判断した処置を行います。
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